8月末より開催されたテニスのグランドスラムのひとつ、全米オープン。
3回戦のセンターコート、アーサー・アッシュ・スタジアムに姿を現したのは女子テニスの絶対的女王セリーナ・ウィリアムズ選手でした。
ウィンブルドン2021初戦で彼女を襲った悲劇
ウィンブルドン1回戦、ベラルーシのアリアクサンドラ・サスノビッチ選手との試合。
それは第1セットをカウント3-1でリードしていた最中の出来事でした。
両者一歩たりとも譲らない攻防の中、セリーナ選手が足を滑らせて激しく転倒してしまったのです。
天然芝のコートで行われる由緒ある大会ウィンブルドン。
また、開幕から2日間にわたって降り続いた大雨も相まって、選手たちに対して自然が牙をむいた瞬間でもありました。
ラケットを杖代わりに痛む足をかばいつつなんとかベンチまで戻りますが、なんとも痛々しい光景です。
応急手当を済ませてコートに戻るセリーナ選手でしたが、すぐにゲームカウントは3-3まで追いつかれてしまいます。
その後、セリーナ選手は温かい労いの歓声の中、目に涙を浮かべながらコートをあとにしました。
東京オリンピックと全米オープンを欠場し治療に専念
怪我の後、セリーナ選手本人も「出場を楽しみにしている」と語っていた東京オリンピックと全米オープン2021を欠場して治療に専念します。
その甲斐もあり、約1年という長期にわたる療養期間ではありましたが、再びツアーへの復帰を果たしました。
ツアー復帰を果たすも… 甘くなかった現実
ツアー復帰後、1年ぶりに悲劇の舞台でもあるウィンブルドンのセンターコートに姿を現したセリーナ選手でしたが、ノーシードの選手にセットカウント1-2で敗れ、初戦敗退に終わってしまいます。
足に違和感が残る中での試合でもあり、かつ1年前の悲劇が起こった舞台でもあるためか終始走り切れていない様子が見受けられ、フットワークの乱れも目立ちました。
最終セットではタイブレークまでもつれ、スコア4-1で一歩リードするセリーナ選手でしたが、フットワークの乱れによってショットの安定感も損なわれており、アウトやネットなどアンフォーストエラーが積み重なった結果、スコア7-10で逆転されてしまいます。
「ダブルキャリアグランドスラム」というテニス史に名を残すとんでもない偉業を達成したセリーナ・ウィリアムズ選手でさえ、長期間テニスから離れていたことで失われてしまった“感覚“の壁の前では無力なのでしょう。
ウィンブルドン後に出場したカナディアン・オープン、シンシナティ・マスターズでも二回戦敗退に初戦敗退と実力を出せず、苦しい試合が続きます。
ファッション誌の記事にて引退の意向を表明
2022年8月9日に発売されたファッション誌『ボーグ』にとあるエッセイが載せられました。
その見だしは「セリーナ・ウィリアムズがテニスに別れを告げる」というものでした。
セリーナ・ウィリアムズらしい前向きな引退
その文章の中で「テニスから離れなければならないことを認めたくない自分がいた」と引退に対する複雑な胸の内を明かしてくれました。
その一方、「私は引退という言葉は好きじゃない。現代的な言葉だとも思えない。これから私が目指そうとしていることを表現するのに最適な言葉は“進化“なのかもしれない。テニスから離れ、自分にとって重要な他のことに向かって進化していくことを伝えたい」とも綴っており、次のステップに進むための前向きな選択であることがうかがえます。
「あと1勝…」テニスに対する本音と今大切なもの
女子シングルスでグランドスラム歴代最多優勝記録を持っているのはマーガレット・コート選手。
その優勝回数は24回。
対して、セリーナ・ウィリアムズ選手のグランドスラム優勝回数は23回。
あと1回優勝できていれば歴代1位タイとなれたことに対して、「マーガレット・コートの24勝という記録を抜かなかったから私はGOATではないという人がいる。その記録を望んでいなかったと言えば嘘になる」と綴っており、テニスに対して未練があることも事実のようです。
しかし、それに続けて「でも、23回“も“勝てたの。それでいいわ。テニスか家族かのどちらかを選ばなければならないなら私は家族を選ぶ」と綴っています。
テニスから離れるという大きな決断をするにあたって、家族というそれ以上に大きな存在がセリーナ選手の背中を押したことがうかがえます。
セリーナ・ウィリアムズ最後の大会 全米オープン2022
1回戦からセットカウント2-0とストレートで勝ち上がったセリーナ・ウィリアムズ選手。
復帰から5大会目にして好調な滑り出しとなりました。
復帰後、久しく見られなかった女王としてのプレー
2回戦は本大会第2シードであるエストニアのアネット・コンタベイト選手との一戦となりました。
第1セットからタイブレークまでもつれますが、セリーナ・ウィリアムズ選手が攻め切りスコア7-4で第1セットを取ります。
第2セットではギアを一段上げてきたアネット・コンタベイト選手の一方的な攻撃が止まりません。
セリーナ・ウィリアムズ選手もカウンターで応戦しますが、押し切られてしまいます。
勝負のファイナルセット。
両者ともにラインぎりぎりでのやり取り。攻撃の手を止めません。
とはいえ、細かい精度やテクニックは元とはいえさすが世界テニス ランキング1位。
角度のついた鋭いショットや的確なパッシブショットは全盛期のセリーナ・ウィリアムズ選手そのままです。
私もリアルタイムで観戦していて本当に興奮がとまりませんでした。
両者ともに譲らぬファイナルセットでしたが、危なげなくセリーナ選手が取り切り3回戦へと駒を進めます。
悔しくも引退試合となった3回戦
2回戦で第2シードを下したこともあり、セリーナ選手への期待は高まります。
第1セットは相手のパワフルなショットになんとか食らいつこうとするも、あと一歩届かず、ゲームカウント5-7で落としてしまいます。
第2セットではパワフルなショットに対してセリーナ選手はスライスやスピンなどテクニックで対応します。
途中、押し切られそうになるものの、タイブレークをスコア7-4で取り切ります。
運命のファイナルセット。
ここまで勝ち上がってきた相手に同じ手は通用しません。
相手のパワフルなショットに終始振り回されっぱなしのセリーナ選手でした。
ゲームカウント1-6でファイナルセットを落とすと同時に、1995年のデビューから27年という長いテニス人生にも幕を下ろしました。
さいごに
いかがでしたでしょうか。
今回は壮絶なセリーナ・ウィリアムズ選手の1年間について書かせていただきました。
いちテニスファンである私自身もセリーナ選手の引退はとても悲しく思います。
絶対的なテニスの強さ以外にも、差別やチャリティーなど社会問題に対する姿勢など、コート外で垣間見える姿も女王という名に恥じないかっこよくてたまにおちゃめな、本当に魅力的な選手であると思います。
コートを去った彼女が今後どう活動していくのかも楽しみですね!